相続放棄の手続きを6ステップで解説|費用・必要書類・期限まで

- 相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する手続きです。
- 申述の期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。
- 費用は申述人1人につき収入印紙800円分と、戸籍などの取得実費がかかります。
- 必要書類は相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本などです。
- 遺産に手をつけると相続放棄ができなくなる場合があるため、財産の処分や消費には注意が必要です。
相続放棄の手続きとは?まず知っておく基礎知識

相続放棄とは、家庭裁判所に申述して、被相続人の財産・負債を含む相続を最初からしなかったものとみなされる制度です。
裁判所の案内でも、この「最初からしなかったものとみなす」という点がはっきり書かれています。プラスの財産だけを残して借金だけ放棄する、という都合のいい使い方はできません。
相続放棄をすると財産も借金もすべて引き継がない
相続放棄をすると、預貯金も不動産もプラスの財産は一切受け取れません。その代わり、借金や保証債務などのマイナスの財産も引き継ぎません。
私が補助者として現場で見てきたなかでも、相続放棄を選ぶ理由の多くは「借金の方が多い」「連帯保証人になっていたらしい」というケースでした。財産がプラスかマイナスか見極めてから判断するのが基本です。
相続放棄・限定承認・単純承認の3つの違い
相続が発生したとき、相続人が取れる方法は単純承認・限定承認・相続放棄の3つです。
| 方法 | 引き継ぐ範囲 | 手続き |
|---|---|---|
| 単純承認 | プラスもマイナスもすべて引き継ぐ | 特別な手続き不要(何もしなければ原則これになる) |
| 限定承認 | 相続で得た財産の限度で債務を引き継ぐ | 相続人全員で家庭裁判所に申述 |
| 相続放棄 | 財産も債務も一切引き継がない | 申述人ごとに家庭裁判所に申述 |
正直に言うと、限定承認は相続人全員で申述する必要があり手間が大きく、実務ではあまり使われません。借金超過が明らかなら相続放棄、という選び方が現実的です。
相続人全員が相続放棄をするとどうなるか
相続人全員が相続放棄をすると、その財産を相続する人がいなくなります。
放棄によって相続権は次順位へ移っていきます。子が全員放棄すれば親(直系尊属)へ、親もいなければ兄弟姉妹へ、と順に移ります。最終的に誰も相続しないと、債権者などの申立てにより相続財産清算人が選任され、財産が清算されることになります。
相続放棄の手続きを始める前の前提と全体像
相続放棄の手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、3か月以内に申述書と必要書類を提出するのが全体像です。

まず、所要時間・期限・申述先・費用という4つの前提をここで押さえておきます。
所要時間と難易度の目安
難易度は、戸籍が集めやすい配偶者・子のケースなら自分でも対応できる程度です。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 書類集めの期間 | 数日〜数週間(戸籍の取り寄せ先による) |
| 難易度 | 配偶者・子は比較的やさしい/兄弟姉妹は戸籍が多く煩雑 |
| 用意するもの | 申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手 |
※申述から受理までの審理日数は、家庭裁判所や個別の事情によって幅があります。確実な日数は申述先の家庭裁判所に確認してください。
手続きの期限は相続開始を知ってから3ヶ月
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければなりません。
この3か月を熟慮期間と呼びます。起算点は「亡くなった日」ではなく「自分が相続人になったと知った日」です。先順位の人が放棄したことで自分に相続権が回ってきた場合は、その事実を知った日からカウントします。
申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
申述先は、被相続人(亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申述人自身の住所地ではない点に注意してください。どこの家庭裁判所が管轄かは、裁判所の管轄区域案内で被相続人の最後の住所地を当てはめて確認します。
手続きにかかる費用と内訳
相続放棄の手続き自体の費用は、申述人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代です。
これに戸籍謄本や住民票除票などの取得実費が加わります。書類の通数は立場によって変わるため、兄弟姉妹のケースほど実費が大きくなりがちです。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 申述人1人につき800円分 | 申述書に貼付 |
| 郵便切手 | 家庭裁判所が指定 | 連絡用。申述先で金額を確認 |
| 戸籍・住民票除票などの取得実費 | 自治体の手数料 | 通数は申述人の立場で変動 |
相続放棄の手続きの流れを6ステップで解説
相続放棄の手続きは、書類集め→申述書記入→家庭裁判所への申立て→照会書への回答→受理通知書の受領、という流れで進みます。

以下、1ステップずつ「ここまでできていれば正しい」という確認の目安を添えて並べます。
ステップ1 必要書類と戸籍謄本を集める
裁判所が案内している主な必要書類は、相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人(放棄する人)の戸籍謄本などです。
立場に応じて、被相続人の死亡が記載された戸籍など追加の戸籍書類が必要になります。なお、同じ書類は1通で足りるとされています。
確認の目安:被相続人が亡くなった事実と、自分が相続人であることが戸籍でつながっていれば、書類集めはほぼ完了です。
うまくいかないときは、提出先の家庭裁判所によっては法定相続情報一覧図の写しで戸籍等の代替ができる場合があります。利用可否は提出先の家庭裁判所で確認してください。
ステップ2 申述書を記入する
申述書は裁判所のサイトに書式と記載例が用意されているので、それに沿って記入します。
被相続人の情報、申述人と被相続人の関係、相続の開始を知った日、放棄の理由などを書きます。収入印紙800円分は申述書の所定欄に貼ります。
確認の目安:記載例と見比べて空欄や記入漏れがなく、印紙が貼られていればOKです。
ステップ3 家庭裁判所へ申立てる(郵送も可)
完成した申述書と添付書類は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ提出します。
遠方で窓口に行けなくても、郵送で提出できます。私が補助していたときも、遠方のご依頼は郵送で対応するのが普通でした。提出後の連絡が郵送のやり取りになるため、申述書には連絡の取れる住所を正確に書いてください。
確認の目安:家庭裁判所から「受け付けました」という連絡や照会書が届けば、申立ては受理処理に進んでいます。
ステップ4 照会書に回答する
申立て後、家庭裁判所から照会書(質問状)が届くことがあるので、回答して返送します。
相続の開始を知った時期、放棄が本人の意思であること、遺産に手をつけていないかなどが問われます。事実をそのまま書いて返送します。
確認の目安:照会書を期限内に返送できていれば、あとは審理を待つ段階です。
ステップ5 受理通知書を受け取る・受理証明書を取得する
審理を経て放棄が認められると、相続放棄申述受理通知書が届きます。
通知書は受理を知らせるもので、申述人に1通送られます。一方、相続放棄申述受理証明書は申請して交付を受ける書類で、債権者に放棄を証明するときや、後順位の相続人が手続きで使うときに役立ちます。証明書は通知書とは別に、家庭裁判所へ申請して取得します。
この手順をひととおり終え、受理通知書を受け取れば、相続放棄の手続きは完了です。
申述人の順位別に必要な書類と戸籍の集め方

必要な戸籍書類は、申述人が被相続人とどういう関係かによって変わります。
共通して必要なのは申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本です。これに立場ごとの戸籍が加わります。
| 申述人の立場 | 共通書類に加えて必要になる戸籍の目安 |
|---|---|
| 配偶者・子 | 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本 |
| 親(直系尊属) | 被相続人の出生から死亡までの戸籍など、子がいない(または先に亡くなっている)ことが分かる戸籍 |
| 兄弟姉妹 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍、親(直系尊属)の死亡が分かる戸籍など |
※実際の必要書類は事案により異なります。提出前に申述先の家庭裁判所の案内で確認してください。なお、同じ書類は1通で足ります。
配偶者・子が申述する場合
配偶者や子は、被相続人の死亡が記載された戸籍と、自分の戸籍があれば足りることが多く、戸籍集めは比較的シンプルです。
親(直系尊属)が申述する場合
親が申述する場合は、被相続人に子がいないか、いても先に亡くなっていることを戸籍で示す必要があります。被相続人の出生から死亡までの戸籍がいるため、子のケースより書類が増えます。
兄弟姉妹が申述する場合
兄弟姉妹のケースは、戸籍集めが一番大変です。被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、親(直系尊属)が亡くなっていることを示す戸籍もそろえます。本籍が何度も移っていると取り寄せ先が増え、ここで時間を取られます。
代襲相続・数次相続が絡む場合の扱い
代襲相続では、本来の相続人(例えば被相続人の子)が先に亡くなっている場合に、その子(被相続人の孫)が相続人になります。この場合は、亡くなった本来の相続人の戸籍も必要になります。
数次相続(相続手続き中に相続人がさらに亡くなるケース)が絡むと、関係する戸籍が一気に増えます。誰がどの順位の相続人かの整理が複雑になるので、この段階で迷ったら専門家に相談した方が早いです。
3ヶ月の期限を過ぎた・つまずいたときの対処法
3か月の熟慮期間内に判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることで延ばせる場合があります。

期限まわりは相談が多いところです。順に対処法を見ていきます。
熟慮期間の伸長を申立てる方法
財産調査が3か月で終わりそうにないときは、熟慮期間が満了する前に、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てます。
ポイントは、期限が来てから動くのではなく、3か月が過ぎる前に申し立てることです。借金の有無がはっきりしない、財産が遠方にある、といった事情があるなら早めに検討してください。
期限を過ぎてしまった場合の対応
3か月を過ぎても、借金の存在を後から知ったなど特別な事情があれば、放棄が認められる余地はあります。
ただし、これは個別事情の説明が要るデリケートな場面です。督促状が届いて初めて借金を知ったようなケースでは、放置せず早急に専門家へ相談するのが安全だと私は考えています。
